それじゃ君にとって僕はなに。 バカとテストと召喚獣~すべてを知った僕となにも知らない君~

君を好きでいるために、君との時間からかけがえのない”なにか”を探す僕の心情が描かれた曲「HOME」

それじゃ君にとって僕はなに

村は土嚢を積み上げた即席な防壁と同様に即席な柵に囲まれていた。 「女と子供は奥へ!男どもは武器をとって西の防衛地点に集合だ!」 古びた刀、鍬、鉈、おのおの武器を手に集落の男たちが集まってくる。 中には使う方が危険なのではとさえおもわれるような、骨董品なライフルを持ち出す者もいることから、いかに今が緊急事態であるかが推しはかられる。 丸太を組み上げて、建てられた見張り台に立つ男が告げる。 「おい!あそこに子供がいるぞ!」 「そんな馬鹿な!避難は先ほど終わった筈だぞ!」 「いや、あの子たちはこの村の子ではないようだ。 」 「なにいってるんだ!早く、助けに行こう!」 「いや、駄目だ…ここからでは遠すぎる…」 「そんな…」 「かわいそうだが仕方がない…此処で迎え撃つ!」 「あの子たちの仇も含めて、今回でけりを付けよう!」 男たちは決意を新たに迎撃に意識を集中させる。 一方、男たちのなかではすでに犠牲者としてリストアップされている「あの子たち」はというと… 「いやー!! たーすーけーてー!! 」 と、あらん限りの声量で叫ぶ男…もとい少年。 「あんたねぇ、何でいっつもそうなわけ?」 「たまには『僕の後ろに隠れて!』とか『ここは僕に任せてよ!』とか殊勝なことはいえないの?」 「そんなのアスカに必要ないじゃないかー!」 自爆した少年… … … … 「い…いやぁ、そんな意味じゃぁないん…だけど…ね。 ね?」 どうやら少年は自分が地雷を踏んだのに気がついたようだ。 しかし、遅いというか、少女はすでに意を決している様だ。 「…なるほど…………ふーん……。 」 …… …… …… あたりの空気が凍り、沈黙が支配する。 魔獣たちは様子を見ている…(笑) そして少女は言葉を紡ぐ。 「お仕置き決定ぇ…。 」 …… …… 「いやぁー!! 」 どうやら少年の叫びはその対象が変わってしまったらしい。 村落の男たちに過去の人にされてしまった少年少女はさらに自分のおかれた状況をも忘れてしまっていた。 「ア…アス…アス…スカ…スカ。 」 「誰がスカよっ!」 バキッ!! とりあえず軽くお仕置きかましてから、少女は髪を掻き上げながら、後方に注意を払う。 「はん!後ろからじゃないとかかって来れないようなしょっぽい魔獣がこのアスカ様をどうこうしようなんざぁ……一億とんで八千万年早いのよ!! 」 「アスカ…それとんでないよ…。 」 「うっさいわねぇ!馬鹿シンジはひっこんでなさい!」 行動をともなう、ありがたい御言葉でシンジと呼ばれた少年は状況的にも物理的にもひっこんでしまった。 …… …… 「あんたたち…よくもシンジをやってくれたわね。 」 …… …… 魔獣は後ろから襲ってきたのではなく、正確には少年と少女は後ろを向いていたのだが、あらぬ言いがかりと、濡れ衣を着せられた魔獣はとりあえずその少女におどりかかった。 「ふんっ!王都でも敵なしのこの天才魔導師、惣流・アスカ・ラングレー様にかなうとでもおもってんの?はん!おめでたいわね?」 赤みがかった黄金色の髪が躍動し、少女自体も薄い光に包まれる。 おどりかかった魔獣ははじき飛ばされ、いったん距離をとった。 「消えなさいよ。 」 少女の言葉は告げるとさらに眩い光が少女の両の手のひらに収束する。 「グリムゾン・フレアー!! 」 魔獣に向かって掲げた両手から赤い光がはじけて魔獣に襲いかかると同時に魔獣の体は瞬時に消滅した。 再起動を果たした少年シンジは魔獣をたやすく蹴散らした少女に尋ねる。 「ねえ、アスカ。 グリムゾン・フレアってなに?」 アスカはいかにもけだるげに少年の方に向き直ると 「はぁ?そんなの知らないわよ。 何となくよ。 何となく。 なんか決めゼリフがあったほうがかっこいいじゃない。 」 と答えた。 魔導師の力は意志によって引き出されるものだ。 ゆえに呪文も儀式もそして特定の名称も必要ない。 「はは…そうだね…」 「でもそんなのいわなくてもアスカはかっこいいと思うよ。 」 「あ…あったりまえじゃない!わたしを誰だと思ってるのよ! アスカ様よ!? アスカ様!! あんた馬鹿ぁ!」 (シンジ…そう思ってくれていたんだ。 ) アスカ嬢がちょっとした感動にひたっているとき、その少年は少女の照れ隠しという行動により、沈黙させられていた。 いや、なにか様子が変だぞ?」 「あれは…!! あの子、魔導師だ。 」 「魔導師だって!? 」 「初めてみるが、おそらく。 でも、どうしてこんな辺境に魔導師が?」 「おいっ、こっちにくるぞ!」 (な〜んか注目されてるわね。 でもしょうがないわね。 こんな荒野にとびっきりの美少女がいるんですもの。 ふふん、でもあなた達なんか用無しなのよ! あたしにはね?) 「すみませんが、この集落に宿をとれるところはありますか?」 「どこか連れを休ませれる場所が欲しいんですけど。 」 「魔獣にやられたのかい?大変だ!! 」 「ええ…まあ…」 アスカはまさか自分がやりましたとも言えず、また魔獣に責任転嫁した。 「お嬢ちゃんたちはこの村の恩人だよ。 あの魔獣には最近みんなまいってたんだ。 ぼろい宿だがそれでも一番いいのを提供するよ。 」 「ありがとう。 」 「確認するけど、お嬢ちゃん…魔導師なのかい?」 「ええ、そうよ。 」 「魔導師協会の仕事かなにかでこの地方に来たのかい?」 「いいえ、協会とは関係ないわ。 まあ、そうね、気ままな旅行って感じかな?」 (気ままな旅行?いいえ、違うわ!! 愛の逃避行よ!! ) そう、逃避行であった。 彼女の母、惣流・キョウコ・ツェッペリンからの。 (最近のママのシンジを見る目が怪しいのよ!! ) 科学者でもあったキョウコは被験者としてシンジをねらったのか、キョウコ自身が アレなのか、アスカには判断つかなかったが実害は免れそうにもなかった。 そのため、シンジを母から遠ざけるため自分の家出にシンジをつきあわせたのだ。 シンジだけを遠ざけるという選択肢はアスカにはなかった。 シンジは不器用ながらも大切にしてくれる父、ゲンドウのことは嫌いでなく、むしろ家庭仲はよかったが、訳がわからないままアスカに連れ出され、いまでもその理由がわかっていない。 「そうですか。 これからどうされるつもりで?」 「そうね、フォラスを抜けてサブナックに行こうかとおもってるわ。 」 「フォラスの廃墟を抜けるおつもりで?あそこは魔獣の巣窟ですよ!?」 「なにいってんのよ?みたんでしょ?あたしの力。 そんなの楽勝よ。 「何かあるとおもったらこれか…。 」 先ほどまでは二十人以上の傭兵がいた。 予定では今もいるはずだったが…。 魔獣の群の殲滅、人数と装備を整えて挑めば、それほど危険はないはずだった。 だが、リリスは通常の魔獣と桁が違っていた。 二十人以上の人数でリリスに奇襲をかける算段だった。 しかし、逆に奇襲を受けたのだ、リリスに。 知恵ある魔獣、圧倒的な力を持つ魔獣が知性を持つ意味を軽く見ることはできない。 「商人たちが伏せていた情報はこれだったか。 」 傭兵たちのリーダーは重火器をも軽々と扱う手練れだったが、その腕を振るう間もなく最初にリリスに頭を潰された。 今残っているのは俺と隣の男だけだろう。 銃声が止まってからずいぶんと時間が経つ。 「畜生! 畜生! 畜生! なんだっていうんだ?いったい、あんなの聞いてないぞ!畜生! 俺たちはだまされたんだ! あんな化け物のことなんか聞いてない。 だから魔導師協会も逃げ腰だったんだ! くそ! なあ、あんたこの状況なんとかする手だて思いつかないか?」 俺は何も言わなかった。 俺自身が聞きたいよ、それは。 それから何時間経ったろう? いや、何十分、数分しかたってないかもしれない。 「くっくっくっ、ふふ、ふふっ、ふはははははぁ」 「なっ!どうした?」 「殺してやる、殺してやるぞ!出てこい!殺してやる!」 くっ、やばい。 いっちまってる。 隣の男は狂気に駆られて白銀の魔獣リリスの前におどりでた。 リリスは体中に銃弾を浴びていた。 少なくとも仲間はリリスに一矢を報いることはできたわけだ。 リリスは忌々しげに目の前の男を叩きつぶした。 「見つかっちまったからには俺もせめて一矢を報わなければな?後悔のないように…。 」 そして不精髭の男は行動に移った。 『後悔のないように』するため、衝撃とともに意識が閉じていくのを感じるときまで…。 『もしフォラスの廃墟に立ち寄られるならリリスと呼ばれる大型の魔獣を退治してくれませんか?もちろん、できる限りのお礼はします。 通常のサイズなら協力すればなんとか追い払えるのですが、リリスともなると我々ではどうすることもできません。 フォラスが拓ければサブナックの最短距離の商路がひらけます。 この村も少しは潤うのですが。 いかがでしょう?』 「え〜っ、アスカ僕が気を失ってる間にそんな依頼受けたの?」 「いいじゃない。 おかげで宿代も食費もみんなただ。 至れり尽くせりだったんだから。 」 「おまけに路銀も補充できちゃったしね。 」 「でも、大型の魔獣って…。 」 「心配性ねぇ、だぁいじょうぶだって、このアスカ様に任せておきなさい!」 「うん…気を付けてね…。 」 (本当に心配してくれるのねぇ、やっぱりシンジは優しいな…あたしはシンジの為にも負けてられないのよ!ってシンジの為って何よ!キャー。 ) (アスカ何か考え込んでる。 大型魔獣の対策とかかな?僕じゃ何の役にも立てない。 せめて邪魔しないようにしなきゃ。 先ほど一戦を交えた人間の悪あがきでおもわぬ反撃を受けたからだった。 <我は死なぬ!人間ごときに殺されてたまるか!> <人間とはなんなのだ?小さく矮小で卑屈、ひどく臆病かとおもえば、集団になると好戦的になったりする。 > <解せぬ。 人間とはなにを求めるものなのだ?> <なぜ、我に敵意をむけるのだ。 我はただ其処にあるだけであるというのに?> <なぜ?まあよい、今回の人間どもはしつこかったな。 今は傷をいやすのに専念するとしよう。 > 白銀の魔獣リリスは多くの疑問をねじ伏せ、休息に入った。 風の音が何かのうなり声のように聞こえ、アスカとシンジの髪をなでる。 「寂しいところだね、まるで墓地みたい。 」 「はぁ?なにいってんのよ?みたいじゃなくてそのものじゃない。 」 「えっ?」 「いい?あんた15年前セカンドインパクトが起きたのは知ってるわよね?」 「うん。 一人の魔導師がおこした魔道実験の失敗。 そして暴走。 魔獣が生まれ、世界に混乱をもたらした。 」 「そう、世界中に魔獣が出現した。 魔獣対策も何もない時代、抵抗の間もなく壊滅した都市は一つや二つじゃない。 そして、生き残った都市も他の都市のことに手が回る余裕はなかった。 そうやって放置され魔獣の巣になっていった都市は数多くあるわ。 当時の死者をそのままにね。 」 セカンドインパクト後は動乱を極めた、今、両親ともに健在というのは全体の三分の一ほどで、シンジは母親を、アスカは父親を失っている。 が、しかし、この二人の場合セカンドインパクトとは関係ないのだ。 実はアスカの母、惣流・キョウコ・ツェッペリンはその名を知らぬ者はないほどのマッドな科学者であった。 あまりのマッドっぶりにアスカの父、惣流・ロルフ・シュピールベルグは他の女にはしり、それを知ったキョウコは激怒、ロルフを拘束、そして魔獣に改造した…。 素直になれないが、小さい頃からシンジ一直線なアスカは父の浮気にぶち切れし、魔獣に改造された父親を退治、殲滅した。 無論、シンジに『ないしょ』である。 そして、そのキョウコの友人にしてシンジの母、碇ユイもまた朱に染まっている人だったが、キョウコに比べまだ良心的だった。 ある一点、息子シンジのことをのぞけば。 彼女もまた世界に名を馳せた人であった…そう、世界最強の魔導師として、 シンジの父、ゲンドウはユイ一直線だったが、ユイの冗談で川のほとりにひいおじいさんを見ることになって以来、やはり命は惜しかった。 うまいこと誘導してユイを封印したのだ。 だが、封印されてなお有効なその魔力はゲンドウの肝を冷やした。 「今、封印されて若いままでいれば、シンジが大きく成長したときに美味しいぞ!? 」 ゲンドウはこのセリフで当面の安寧を得た。 もちろんシンジには内緒である。 実はゲンドウがシンジを大事にする理由がここにある。 愛妻ユイによく似た息子シンジはゲンドウにとっても可愛いかった。 (もし、シンジが女の子であったなら、危なかったのはユイではなく、ゲンドウだったかもしれない。 ) 何もなくても、シンジは大切だったが、ユイが出てきて、そのときシンジがゲンドウに対する不満をこぼそうものなら、地獄の底へ、パラシュートなしのスカイダイビングがゲンドウに対して決行されることは確定だ。 ゲンドウは死にたくなかった。 「ここもそんな都市のひとつってとこでしょ。 」 「数多くの人が死んだんだよね?」 「そうよ。 人類の半数を失ったらしいわ。 」 「アスカ…死んだりしないでね。 」 「馬鹿!! 当たり前でしょう!! ……でも、心配してくれてありがとう…ってどこ見てんのよ。 」 (いまの決めゼリフだったのに〜。 何で見てないのよ?う〜。 ) 「アスカ、あそこ!何かいる!」 「どこよ?」 「あの崩れた壁の間だよ。 」 崩れた破面が新しかった。 そこらにも真新しい傷などがある。 「そういや、崩れ方が最近のものが結構あるわね。 なにかあったのかしら?」 「人だ、人がいる。 怪我してるよ。 」 「意識は?」 瓦解した建造物の隙間に運よくはさまれ命を拾った男の意識が覚醒に向かう。 「うん…俺は生きているのか?」 「ちょっと、あんた大丈夫?」 「ん?死んでないという意味でなら大丈夫だな。 それより二人だけか?ここは魔獣の巣窟だ。 引き返した方がいい。 」 「帰れるわけないじゃない。 依頼受けちゃったんだもの。 リリスって奴、退治するの。 」 男は息を飲んだ。 鮮明にあの白銀の魔獣の姿が脳裏に浮かぶ。 「リリスを!? おまえたちが?馬鹿なことをいうな!さっさと引き返せ!」 「馬鹿ってなによ!? それが命の恩人に対する言葉ぁ?」 「命の恩人だからだよ!リリスはふつうの魔獣じゃない!ただでかいだけじゃないんだ!」 男は恐ろしかった。 あの白銀の魔獣が。 たいていのことは切り抜けられる。 そう思っていたし、実際いくつもの危機を乗り越えてきた。 自信もあった。 あの白銀の魔獣に出逢うまでは。 地の利を用いて巧みに射線をそらす、人間のとらえられない角度から急襲、そして潜伏。 目に見えない恐怖、どこからくるかわからない恐怖、次は誰かという恐怖。 命を差し出して手傷しか負わすことしかできない。 命を懸けなければ、それさえも叶わず、ただ死あるのみであった。 そう自分は怖かったのだ、そのときはそう感じていられなかっただけなのだ。 難を逃れたことで、男に抗いがたい恐怖の影がさす。 「大丈夫よ。 この天才魔導師、アスカ様にかかっちゃぁ魔獣なんかぺぺぺのぺーっよ。 」 魔導師?この娘が魔導師?魔導師協会からの派遣か? 男の脳裏に狂気の果てに死んだ即席の戦友の言葉が浮かぶ。 『畜生! 畜生! 畜生! なんだっていうんだ?いったい、あんなの聞いてないぞ!畜生! 俺たちはだまされたんだ! あんな化け物のことなんか聞いてない。 だから魔導師協会も逃げ腰だったんだ! くそ! なあ、あんたこの状況なんとかする手だて思いつかないか?』 魔導師協会!! あいつらが最初から行動に移していれば、こんなことにはならなかったのではないのか!? この少女に責はない。 やつあたりなのも男は理解していた。 しかし、男は心中穏やかではいられず、言葉が荒くなる。 「魔導師?協会からの派遣か?」 しかし、何故か必要以上にムキになって少女は言葉を否定する。 「へ?違うわ!! 協会とは無関係、あたしはフリーよ!! 」 協会のつてを使うわけにはいかなかった。 だって!ママにバレちゃうじゃない! それは避けなければならないことだった。 「それはそれとして、あんた命の恩人に名も名のれないわけ?」 少女にはそれが多少感にさわっていた。 「ああ…すまない。 加持だ。 加持リョウジ。 傭兵をやってる。 おまえさんと同じくフリーだ。 」 「僕は碇シンジです。 」 「あたしはアスカ、惣流・アスカ・ラングレーよ。 」 さらに男は言葉を続ける。 「他の仲間は?」 「それが……。 」 「いないわ。 」 少年が言いよどむ言葉を少女が簡潔に告げた。 「そうか。 」 わかっていた。 あの白銀の魔獣リリスを相手にそう何人も幸運に恵まれるはずもない。 自分が生きていることすら奇跡なのだ。 「それで…引き返す気はないのかい?」 「ええ。 」 「そうか…気をつけてな?」 もう、止める気はなかった。 相手が魔導師であることに自分のこころが多少冷淡になっていたことに男は気がつかなかった。 自分のねぐらで休息をとっていたリリスは侵入者に気がついていた。 <また人間か?こりないな?> まだ傷が癒えきらないままリリスはその巨体を持ち上げた。 所々、銃撃によって赤く染まった白銀の体毛がその主の不機嫌さを主張するかの様に逆立つ。 <先ほどの人間たちか?我はしとめ損ねたのか?> <いや、たとえそうでも、こんなに早くは動くことはできまい。 新手か。 > <人数は多くないな。 手練れかもしらぬ。 > <誰であろうと、邪魔者は殺すまで!> <邪魔?我のなにを邪魔するというのだ?> <我は何をしているというのだ?> <我は何故に存在する者なのだ?> リリスは分散していく思考を対侵入者用に切り替えるため、思考をまとめにはいっていった。 「いた! あれがリリスね?」 「たぶん、でも怪我してるね?」 「加持とかいうのたちがやったんじゃない? やられっぱなしってわけじゃなかったみたいね? 多少は抵抗できたんだ?」 悲しそうな表情を表に出した少年に少女が告げる。 「あんた、魔獣に同情してんの? 魔獣の回復力を甘く見ないことね?あんなの怪我のうちにはいんないわ!それに今から私たちがすることわかってんの?」 「…うん…。 」 「ほんっとにあんたはアマちゃんなんだから!」 だからほっとけないのよ! シンジは…誰にでも…優しいから…。 「ほらっ、危険だから其処でまってなさい!」 「うん、でも…。 」 「あんたがいてなにか役に立つわけ? 怪我したくなかったら其処にいなさい!」 あんたに怪我させたくないのよ! そう、あんたはあたしが守ってあげるわ…。 あんたはおとなしくあたしの言うこと聞いて、そばにいればいいのよ!…ずっとね…。 思考に区切りをつけ、アスカは戦闘に意識を収束させる。 「アスカ、気を付けて。 」 「任せなさい!」 <何かとおもえば、人間の小娘か。 > 拍子抜けした。 武器も持たない人間の娘がこの白銀の魔獣になにができる? 話しにならないリリスはそう思った。 しかし、リリスの体毛が逆立つ、全身が、そう本能が『危険だ侮るな!』と告げる。 膨れ上がる殺気。 これをあの小娘が発しているか? リリスはタンッとその場を移動した。 本能に従っての行動だ。 そして、それは正解だった。 リリスのいた場所にあった筈のものが存在していなかった。 リリスは認識を訂正せざるえなかった。 アレは敵だ!それもかつてないほどの強敵。 明確な意志を持って我を滅ぼそうとする者。 <おもしろい、おもしろいぞ!人間の娘よ?> <何故我をねらう? 何を求めるのだ?> <くくっ。 さあ、宴を始めよう。 邪魔する者などなにもない。 > ぐおぉぉぉ!!!! リリスの問いはもちろん彼女には通じない。 アスカはリリスが戦意満々であることはわかった。 それだけで充分だった。 「ちぇっ、かわされたか。 」 全然残念そうでない彼女は次のアクションをとる。 「ちょこまかされると面倒だから、動き、止めさせてもらうわよ?」 リリスの足下から無数の光の筋がリリスに向かう。 リリスは回避行動すぐさまとったが、かわしきれない。 数本の光が魔獣の動きの邪魔をする。 そして、閃光!!! 先ほどの場所が無惨な姿をさらす。 「へぇー、あんたやるじゃない? いまので終わりにするつもりだったのよ?」 <後手に回るのはまずい> リリスは思った。 <大した傷ではないが、時期がまずかったようだ。 アレの相手をするにはいささか辛いものがある。 > リリスは的を絞られないよう撹乱しながら、その鋭い爪による斬撃を見舞う。 アスカの防御障壁に遮られ、その爪はアスカに届くことはなかった。 「甘いわね。 あんたの攻撃なんて効かないわよ!」 なんて重い攻撃かましてくれんのよ? しゃれになんないじゃない? まずいわね。 そう何度も耐えきれるようなもんじゃないわ。 長期戦は不利、短期決戦でいくわよ? あたしはアスカ! 負けてなんかいられないのよ! <本調子ではないとはいえ、まさか、我のあれを止められるとはな?> <いや、本調子でもあの娘にはかなわぬかもしれぬ。 > <無理をし過ぎたか?傷が拡がってしまったようだな。 > <持久戦は不利か…。 行くぞ!> … …… ……… リリスの体の中枢部に風穴があいていた…。 リリスの爪はアスカの防御障壁を貫いて、アスカをも貫く寸前で止まっていた。 いや、正確には止められていた。 完全に相打ちだった筈だった。 リリスが瞬間、爪を引いたのだ。 アスカはそれに気づいていた。 「あんたなによ? なんで?」 「なんでそんなことすんのよ!わけわかんないわ!」 リリスは死んでもよかったのだ。 だがしかし、相打ちだけは避けねばならない理由があった。 <この体もここまでか…。 > <まさか、次はこんな小娘の体とはな。 > 閉ざされゆく意識の仲でリリスはこれからの自分のことを考えていた。 「アスカ、おわったの?」 シンジが心配げに声をかける。 アスカは内なる疑問をしまい込んで、さも何でもないように答える。 「おわったわよ!アスカ様にかなう魔獣なんかいるもんですか!」 実際はかなりやばかった。 シンジに悟られるわけにはいかない。 優しさ故に彼は自分自身を危険にさらすようになるだろう。 それだけはあってはならないことだった。 あたしはシンジにとって『無敵のアスカ様!』でなくてはならないのだ。 あの魔獣の真意はわからないが、今、生きているのは自分なのだ! アスカはあの魔獣のことは忘れてしまおうと決めていた。 ……それが絶対に不可能であることを知らずに……。 「でも、さすがに疲れたわね。 」 ぎりぎりの死闘だった無理もないことだとおもっていた。 そして、アスカに耐え難い睡魔に襲った。 「さっさとサブナックにいって宿を…とる…わ…よ。 」 「アスカ!!! 」 「よかった寝ているだけだ………。 でも、このままサブナックに抜けるのは危険だよね? あの村落に戻ろうかな…。 」 「アスカ、ごめん。 」 シンジはアスカにことわるとアスカの体を抱き寄せ、背負った。 こんな華奢な体でがんばってきたんだ。 僕もがんばんなくちゃだめだよね? 「さあ、後少しでフォラスを抜けるよ。 」 ガラガラッ! 廃屋の壁が崩れた。 そこには3体の魔獣がいた。 村落にいた魔獣と同じタイプだ。 小型で群を作り、知性はあってないようなものだった。 明らかに彼らの獲物は僕たちだ。 数は少ない、アスカにとってはなんてことない数だ。 しかし、アスカは今、戦闘に疲労して眠っている。 アスカを背負いながらじゃ逃げ切れない! アスカをおいていくなんて出来ない! やるしかない。 できるのか?僕に。 「逃げちゃ駄目だ。 」 不安の抑えきれないこころを自己暗示によって押さえつける。 アスカを後ろにかばい果敢にもシンジは魔獣の前に立ちふさがった。 魔獣たちはシンジの周りを等間隔に囲む。 その程度の知性はあるようだ。 魔獣が間合いを一気に詰めようとしたとき、 「あなた、誰?」 涼やかでいて、どこか浮き世離れした聞き慣れない凛とした声が彼の後ろから響いた。 「はあ…俺もお人好しなもんだな。 」 フリーの傭兵、加持リョウジである。 「まあ、あんな子供見捨てた日にゃぁ、目覚めがわりいしな。 」 加持リョウジはフォラスの廃墟にもどって来ていた。 加持は目をみはった。 辺りには複数の魔獣の死体。 あまりに原型をとどめなすぎて、正確な数がわからなかった。 少女が倒れ込んで、そのそばに少年が座り込んでいた。 これが魔導師の力なのか? 傭兵家業の中で魔導師とあったこともあるがここまでの力はなかった。 とりあえずは彼女が倒れ込んでいることが問題だ。 「おい、シンジ君。 何があった?彼女は大丈夫なのか?」 「加持さん!! 」 「わかりません。 僕にも何がなんだか?」 シンジは呆然としている。 「とりあえず何を見たのかだけでも教えてくれ。 」 「あなた、誰?」 鋭利な気をまとい、触れたものすべてを切り裂いてしまう刀剣のような少女だった。 蒼銀の髪、紅い瞳、スレンダーな裸身、そしてあまりにも白いその肌は白銀の魔獣リリスを彷彿させた。 しかし、 「み…見ちゃ駄目だ。 」 少年の論点はどこかにずれまくっていた。 しかも、少年の視線はそれることはなかった。 そうしてる間にも少女は次の言葉を紡ぐ 「そう、この器が欲しいの? でもだめ。 」 「これは私の新たな器、あなた達にはあげない。 」 彼らを囲む魔獣はそんなこといっても無駄とばかりに、襲いかかった。 「あなたたち、私の邪魔をするのね?」 最後の確認、そして、彼女は死の宣告を行う。 「あなた達、用無し…死んで…。 」 少女の姿がかすむ。 そして次の瞬間、一匹の魔獣の胸がそのか細い腕に貫かれた。 何が起こったかわからぬまま、魔獣は絶命する。 いまなら動きが封じられているはずだと、その隙をついて少女の背後に二匹が襲いかかる。 少女の背中から光の翼が生まれる。 それによって生じた衝撃波によって魔獣は粉々に解体された。 少女は何か問いたげな少年のそばに降り立つとその光の翼が消える。 「き…君は?」 少年の問いには答えず、静かにその紅い瞳を閉ざし眠るようにシンジにもたれかかる。 其処にいたのは、少年が守ろうとした少女アスカだった。 『これは私の新たな器、あなた達にはあげない。 』 「私の器っていったんだな?」 「うん…。 」 「そうか、聞いた話から判断するとそれはリリスだな。 」 「でもっ、リリスはアスカが倒したんだよ?僕もリリスの死体を見た。 」 「だからだよ。 あれは『器』って言ったんだろう?」 「おそらく、リリスにとって肉体は取り替えのきく器なのさ。 だから前の自分の肉体を壊した彼女にとりついた。 」 「そんな…それじゃ…アスカは…。 」 「それはわからない。 俺が知るわけないだろう?ただ、あきらめた時点でそれはもう終わりってことぐらいさ、俺にわかるのはな。 」 「すまない…。 」 「えっ?」 「俺はぶん殴ってでも彼女を止めるべきだったかもしれない。 」 「俺は君たちを見捨てたんだ、命の恩人を!」 「じゃあ、何で今、ここにいるんですか?」 …… 「加持さんは僕たちを見捨てたりなんかしてませんよ。 」 「シンジ君…ありがとう…。 」 優しい少年だ。 だからこそ、最初から力になってやりたかった。 傭兵家業が長すぎたのかもしれない、人を疑うこと、人を欺くこと、人の裏を探ることに慣れすぎた。 彼は清涼剤だな。 俺はまだ戻れるかもしれない、夢をおっていたあの頃に…。 「君たちはこれからどうするつもりなんだ?」 「西の村落にもどって、アスカの回復をまってからサブナックに向かうつもりです。 」 「…そうだな、俺はこれからサブナックに向かう、よかったら一緒にこないか?いろいろ要りようになるかもしれないし、町までは俺が護衛しよう。 どうかな?」 「加持さん…お言葉に甘えさて頂きます。 」 「なに、遠慮するな!君たちは恩人だからな。 それに子供は大人に甘えるもんだ。 」 そう言って加持は男臭い笑みを浮かべた。 男は遠い昔に忘れてしまっていた笑みをいま、思い出していた。 先の村落で礼金をもらっていたシンジたちはそこそこの宿をとっていた。 「俺はこの宿にいる、なにかあったら知らせてくれ。 力になろう。 」 「何から何まで済みません、加持さん。 」 「ちがうだろ?そういうときはありがとうでいいんだよ。 」 「それにな、俺はあのリリス討伐に雇われたんだ。 おかげで成功報酬までもらえそうだよ。 手柄横取りするみたいだがな?たっぷりぶんどれたらおごるよ。 」 あの狸共め、出し惜しみした情報の分までたっぷりぶんどってやるから覚悟しろよ! 死んでいった仲間の仇をとってくれたあの娘にも分け前、余裕であげれるくらいは必ずむしり取ってやるからな。 この時の加持は鈍いシンジにもなにを考えているかみえみえだった。 「ははっ。 」 たぶん、ぶんどれたらじゃなくて、ぶんどるんだろうな。 そんな思考にとらわれていたシンジの背後に人影がうつる。 「わぁ!!! 」 「うわぁ!? 」 「おどろいた?んで、ここどこよ?」 「アスカ…脅かさないでよ。 」 「サブナックの町だよ。 」 加持がアスカの問いに答える。 「それでなんであんたが此処にいるわけ?」 「加持さんは僕たちをサブナックまで送ってくれたんだ。 」 シンジは加持が手招きしているのに気づいた。 シンジはとりあえずアスカとの会話をきって、加持のそばで 「何ですか?加持さん。 」と小声で告げる。 「彼女、どうだ?」 「はい、アスカに変化はありません。 以前どうりです。 」 「そうか。 」 アスカはシンジとの会話がうち切られたのと、シンジが自分があまり知らない加持と内緒話しているのが気にくわない。 不機嫌メーターがどんどん上昇していく。 「何、男同士で内緒話してんのよ!やらしい!」 「やらしいってなんだよ?」 「やらしいっていったらやらしいの!」 シンジは自分の誇りのためにも抵抗せねばならなかったが、アスカはシンジが抵抗するのも気にくわない。 「ははっ、シンジ君はもてもてだな?焼き餅かい?」 「なっ!? なにいってんのよ!あんた!」 それにしてもシンジ君、彼女はこれでいつどうりなのか?大変だな。 「じゃあ、俺はこれで…。 」 「ちょっと、待ちなさいよ。 借りを作るのは嫌いなの。 ご飯ぐらいはおごるわ。 」 「恩人はきみたちの方だとおもうが?」 「あたしはね、でもシンジの分があるわ。 」 やれやれ、借りを返して俺をシンジ君から遠ざけたいわけか、かわいいもんだな。 「いや、俺は野暮用があるんでね。 」 「なによあれ!あたしがおごってやるってんのに!」 「それにシンジ、あんたあいつになんかされなかった?」 「そんなっ、それになにかってなんだよ?それに加持さんは男だよ?何でそうなるのさ?」 「あっま〜い!それは関係なし、むしろそれの方が可ってのがいるのよ!世の中には!」 「あいつ傭兵なんでしょ?傭兵にはアレが多いっていうから。 」 「アレってなんだよ?何でそんなこと知ってるのさ?」 アスカは詰まった、まさか、自分の母親がアレの有力候補でシンジをねらっているっぽいからなんて言いたくはない。 「う…うるさいわね! あんたなんか一発なんだから!何かあっても知らないわよ!? 」 何かあって、シンジがナニになったら、困るのはアスカだった。 しかし、シンジに詳しく教え込んで対処法を憶えさせるのもいやだった。 アスカは逃げるように部屋に戻っていった。 「アスカ…わけわかんないよ。 」 シンジにはあまりに遠く、危険すぎる世界だった。 そして、後にその意味を知るとき、こう告げたのだ。 「アスカ…人間って知らない方が幸せってこと…あるんだね…。 」 その言葉はあまりある説得力と哀愁をたたえ、万人にまねできない重さををもっていた。 「あれはなに? これも?」 闇夜に浮かぶ白い人影、白銀の魔獣リリス、そのひとである。 彼女にとって人間の町は初めての連続であり見る物全てが興味を引いた。 「ここはたくさんのものがあるのね?これらにも意味があるの?」 「人間がいるわ。 彼らはなにをおもうの?」 力の回復を妨げぬよう彼女の体の正当な主、惣流・アスカ・ラングレーが眠りにはいると彼女はその自らに対する疑問の答えを他に求めるがごとく人間の町を散策していた。 「やっぱり…いない。 」 どうやらアスカは夜な夜などこかへ出かけているようだ。 さりげなく、「昨日の夜、どうだった?」と聞いた結果、「昨日?よく眠れたわよ。 」と返ってきた。 リリスだ間違いない。 アスカの体を使って何をしているんだろう? シンジは下水道かどこかに人を引きずり込み、血肉をすするアスカが思い浮かんだ。 アスカがそんなことするはずない! って今はアスカじゃないじゃないか!大変だ! なぜかシンジの中でそのことは決定事項となっていた。 「くそっ、はやい!見失っちゃうよ!」 と、そんなところでシンジはリリスをつけていた。 「あなた、死にたいの?」 背後からの声、それはなんの感情も乗せられていない。 脅しでも警告でもない。 それ故に恐怖を誘う。 「なぜ?」 なぜ?ってなぜつけてきたかってこと?彼女の言葉を簡潔だ。 形容詞どころか、主語、述語まで抜ける。 「そんなのほっとけないじゃないか!? 」 「なぜ?」 また、なぜ?なぜほっといておかないかってことか? 「ア…アスカの体なんだよ!? ほっとけるはずないじゃないか!! 」 「ア…アスカの体をかえしてよっ!! 」 …… …… 「あなた、私に死ねっていうのね?」 「えっ?」 「あなたの言葉はそう言う意味。 」 「死んじゃうの?」 シンジはリリスに問いかけた。 「いいえ、死なないわ。 」 「…私は死を持たぬ者…。 」 「わたしは肉体を持たない……私という存在が私の全て…。 」 「幽霊みたいなものなの?」 「よく…わからない…そう…かもしれない。 」 とりついてるみたいな感じなの? 「じゃあ、僕にとりついてよ!」 「なぜ?…あなた…怖くないの?」 「怖い、怖いよ、でも、アスカがいなくなるなんていやだ!! 」 「でも、無理。 」 「どうしてさ!? 」 「肉体はいわば魂の牢獄…はいることはできてもでることはかなわないわ。 」 「そんな……。 」 「ねぇ、リリス…どうすることもできないの?」 「リリス?」 「えっ!? 君の名前じゃないの?」 「私に名はないわ。 必要ないから。 」 「そんなの不便じゃないか!? ………そうだな………。 レイってのはどうだい?」 「レイ?」 「そう、君の名前だよ、霊みたいなものっていってたしね?」 「レイ…私の名前……なぜ?…」 「名前もないなんて寂しいじゃないか。 」 レイはあたりに人の気配を感じ取った。 「さみしい?…!ここまでのようね……また…会いましょう。 」 そしてシンジも複数の人間の雑踏が近づいてくるのに気づく。 「そうだね、アスカのこと、何とか考えなくちゃ。 」 彼女の姿は闇に溶け、シンジは町明かりの方へと歩いていった。 」 加持の言いたいことは視線がかたっていた。 「ちっ…ちがうよ!彼女はやってない!彼女はちがうよ!」 周りには意味がわからない、加持とシンジだけが理解できる会話だった。 しかし…。 「シンジ……彼女ってどこの女?」 「そう…女に手ぇだしたのね?手をだしたのはシンジ?」 「そう…そうなの…。 」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…… 『か…加持さん!! 』 『すまない、シンジ君…俺には何もできない。 』 『そ…そんな!? 』 『だから、自分で考え、自分で決めるんだ。 後悔のないようにな?』 『加持さん…って選択肢なんてないじゃないか!? 』 『すまない。 』 『加持さん!…たすけて!! しくしく…しくしく…。 加持の背中に痛いほど非難の視線が突き刺さる。 加持はそれを丁重にそれを無視した。 「ってーとなに?あたしにリリスってのが寄生してんの?」 アスカ嬢はご機嫌ななめ。 「まあ、おそらく、そうだろうな。 」 「詳しくはシンジ君に聞いてくれ、彼女に会ったのはシンジ君しかいないしな。 」 「それに、だいぶ親しくなってるみたいだしな!? 」 にやにやと笑みを浮かべながら加持は楽しそうに言う。 しくしく…しく…し…く 『加持さん、ひどいよー!』 シンジ君の心の叫びが聞こえてきそうだ。 えっ、シンジ君が今の今まで、なにを体験していたかって? トップシーレットだな。 まあサードインパクトっていっとこうか。 うらやましい?馬鹿なことをいうな!シンジ君だから耐えれたんだよ。 まあ英雄かな?彼は。 いや神話って言ってもいいだろう。 神話になった少年ってとこだ。 「で…話してもらいましょうか?シンジ君?」 「ア…アスカ…もう…しない?」 涙目でアスカに嘆願するシンジ。 「うっ、もうしないわよ!」 「ほんと?」 加持は笑いたいのを必死でこらえている。 「ほ…ほんとうよ!」 「アスカ…信じてるからね?」 まずったわねー。 お仕置きしづらくなっちゃたなー。 実はシンジに女の影がちらつく度にお仕置きする予定だった。 … …… ……… 「ふ〜ん、で結局でどうすればいいのかはお手上げってことなの?」 「そうみたいだな。 」 「いつまでこの幽霊みたいなのに寄生されてなくちゃなんいのよ!? ちゃっちゃと追い出す方法ってないのかなー?」 「そんな!? 追い出したりなんかしたら、彼女はどうなるのさ?」 「なによ、あんた!? いやにあの女の肩持つじゃない?」 アスカの眉がつり上がる。 「あの女って…レイだよ!」 アスカの眉がますますつり上がる。 ははっ、シンジ君はチャレンジャーだな?あれだけの目にあってまだこりないのか? 加持にはこの後の展開が目に見えていた。 … … 「いや…深い意味はないんだよ?アスカ…ね?」 …… …… 「浅い意味ならあるのね?」 『来たっ、加持さん、たすけてっ!いやっ、首を横にふらないでー!』 「シンジには名前で呼ぶことに意味があるのね?」 「シンジは名前で呼ぶの?だれを?私じゃない女を?なぜ?」 「お仕置き?そう…そうよね?」 …… …… 「いやぁー!お仕置きはいやぁー!ア…アスカー正気にもどってぇー!お仕置きはいやぁー!」 …… …… …… だからおもしろいんだなっ、人生は。 「ううっ、裏切り者…。 」 シンジ君の視線が痛い。 自分のためにもフォローしとくか。 「シンジ君、あのとき、俺が何かできたとおもうか?」 「…無理…ですね。 」 「だろう?」 シンジは非難の対象をアスカに移した。 「う…嘘つき…アスカの嘘つき…。 」 「シンジ…ごめん。 でも、わかって!? 」 『なにをだよ!!! 』 またシンジ君の心の叫びが聞こえるよ。 でもそれはシンジ君にも問題あると思うぞ、俺は。 「でも、とりあえずやることはきまったわ。 」 「えっ」 「ほう、なにをするのかな?」 「殺人犯をやっつけるのよっ!! 」 またアスカに振り回されるのか…誰にも迷惑かからなければいいけど。 「なによ、シンジ、不満そうねぇ?」 「そっ、そんなことないよ。 」 シンジ君おびえてるよ。 まあ無理もない。 見てるだけで夢に見そうだったからな。 「でも、どうやってだ?」 「そんなの深夜見回りに決まってるじゃない!」 「大変そうだな?まあ、頑張ってくれよ。 」 「なによ、あんた参加しないつもり?」 さっそくやらかしてるよ、アスカ。 お…俺まで数に入っていたのか? 「加持さん、すいません。 」 「まっ、乗りかかった船だしな?」 たまにはいいか?おもしろそうだしな? 薄暗い照明効果を意識した部屋でシンジは目を覚ます。 「ん…ここは…どこ?」 覚醒したばかりの意識はまとまりを欠き、状況認識を阻害するがほどよい暗さは目がなれるのを助長し、自分が華美ではないが、かなりの価値のありそうな調度品のある豪華な一室にいることが理解できた。 「目が覚めたのかい?シンジ君。 」 部屋の隅の趣のある椅子にゆったりとこしかける人物がいることに気づく、顔は見えない。 そのことがシンジに警戒心をもたらす。 「誰?」 「カヲル、渚カヲルだよ。 親しみをこめてカヲルって呼んでくれるとうれしいよ。 シンジ君。 」 歩み寄ってきた男は少年だった。 薄焦げ茶色の髪に濃い緑の瞳そして白い肌、一目で高級品とわかる衣服を一寸の隙もなく着こなしていたが、何もしなくても高貴な生まれであることがわかる気品をその身にまとっていた。 シンジは混乱した。 貴族?でも、どうして貴族が?僕を? 「どうしてこんなことをするのかわからないのかい?」 だめだ、主導権をにぎられてる。 落ち着かなくちゃ駄目だ。 「わからないよ。 」 「シンジ君が悪いんだよ?こんな夜更けに一人で出歩いて、僕を誘ってるなんて。 僕にはもう我慢が出来ないよ。 」 カヲルの目が不釣り合いな欲望にギラつく、先ほどの気品が霧散してしまったようだ。 そっ、それが理由なの?全然わかんないよ!それに誘うってなにさ? 「もう僕はシンジ君にメロメロだよ。 コウイに値するってことさ。 」 「コウイってなにさ!何でカタカナなんだよ!わけわかんないよ!」 「掛け言葉だよ。 シンジ君。 」 「つまり…好意に値するから行為に値したいってことさ。 」 「わっ、わからないよ!」 なんなのさ!どうなってるんだよ!アスカ!加持さん!どこにいるの? 「まだわからないのかい、シンジ君、君はうぶなんだね?ますますコウイに値するよ。 」 なんか雰囲気が怪しいよ!だっ 誰か、たすけて!! 「僕がシンジ君に教えてあげるよ。 」 「なにをさ!」 「シンジ君がコウイに値することをさ。 」 こっこれなの?アスカがいってたアレってこれのこと? これがアレなの? 逃げちゃ駄目だ…って違う!逃げなきゃ駄目だ!逃げなきゃ駄目だ!逃げなきゃ駄目だ! 「逃げなきゃ駄目だ、逃げなきゃ駄目だ、もう駄目さ!? シンジ君あきらめて僕と一つになろう。 」 「どうやってさ!」 「それをおしえてあげるのさ、やさしくするよ…。 」 「いやぁぁぁぁぁ!! アスカぁ、加持さん、レイ!! 助けてぇぇぇー!! 」 「んっ?」 「どうした!? アスカちゃん?」 「いや、なんか…おなかが減ったわね。 」 シンジの救世主たちの意識はシンジから限りなく遠かった…。 「じゃあ、なんか買い食いするか?俺もコーヒー飲みたいしな?」 そして、さらに遠ざかっていった。 …合掌… 「おばちゃん、あたしフランクフルト!」 「俺はコーヒーをもらおう。 」 「あいよっ。 」 かっぷくのよい中年女性が景気よく対応する。 ふう、やはり深夜はひえるな。 コーヒーがうまい。 ボトッ 「ん、アスカ?落としたぞ?」 「いらない…肉…嫌いだから…。 」 「!!! …リ…リリスか?」 加持にあのときの光景がありありと浮かぶ。 体がこわばる。 あのリリスがすぐ後ろにいる! 加持は振り返り、リリスと向かい合おうとした。 不意に背後からリリスの手がのびて加持の首筋にそえられる。 力は入っていない。 いっ、いつのまに!? 「私はレイ…二度目はないから…いい?」 感情が乗せられていた。 おさえた怒りと警告の念がちりばめられていた。 「わかった。 」 「そう…よかったわね…。 」 死なずに済んでよかったってことか? 「どうする気だ?」 加持は彼女が何をしようとするのか気がかりだった。 しかし、彼女は気にとめてすらいない。 「碇君がよんでる…」 呼んでるなんてもんじゃなかった。 魂からの叫びだった。 これはまさか? いや、シンジ君、君は大変なものを背負い込んだのかもしれないぞ? だが、加持は今後の展開が楽しみになった。 今の加持の心境はこれにつきた。 「あなた、だれ?」 「君こそ誰だい?人の家に無断で入り込むなんて、好意に値しないよ?」 「碇君を放して。 」 その碇君はというと…縛られていた…。 「んー、んー」 「ごめんなさい、碇君、何をいっているかわからないわ。 」 そんなことは問題じゃなかった。 「わからないのかい?僕たちの愛の営みを邪魔するなっていってるんだよ。 」 大きく意味を取り違えていた…というか別物になっていた。 「ふふっ、愛しい人を蹂躙するのも愛の形なのさ。 邪魔しないでもらえるかい?見てるぶんにはかまわないさ。 その方が燃えるしね、シンジ君?」 「んーんー」 「そう、喜んでくれるのかい。 」 恍惚としていっちゃってるカヲルを無視して、レイはシンジの救出に取りかかっていた。 「それは…ちがうわ…。 」 ぷはっ、猿ぐつわを解放された少年は大きく息をついた。 「碇君のこころ、悲鳴をあげてるもの…こんなに…。 」 レイはシンジ引き寄せる…シンジはレイから目を離せない、引き寄せられる。 縛られ、多少衣服が乱れた少年への少女からの口づけ。 妖しかった。 シンジは時が止まっていた。 なに?なんなの? レイが?僕に?なにがどうした? 混乱の極みにいた少年に動き与えるものが与えられた。 !!何かが…入ってくる!暖かい…。 「ぼっ、僕のシンジ君になんてことするんだい!? 」 「それも…違うわ。 」 「碇君と私はひとつ、碇君は…私のだもの。 」 「そっそんなの認めないぞ!」 「あなたの許可なんて…いらない…必要ないもの…。 」 「じゃ…さよなら…。 」 レイはシンジを抱きかかえると天窓を破り、そこから飛び去っていった。 「シ…シンジく〜ん。 」 万難を排した碇シンジ氏はさらなる、そして、大きすぎる問題の種に抱えられて町の夜空に消えていった。 少年が夜道を歩いていた。 その少年はめがねをかけたくせっ毛の、しかし、どこか愛嬌のある顔をしている少年だった。 少年の周りには誰も人はいない。 当然だこんな深夜に集団で徘徊していたらその方が不自然である。 が、しかし、昼でも彼の周りには空間が生まれるだろう。 彼は無意味に都市迷彩を着込んでいた。 「ったく、トウジの奴もわがままだよなー。 こんな夜中に腹減ったつって買い出しに行かせるか?ふつう?」 彼はどうやらジャンケンにでも負けたのだろう。 怪しい関西弁を駆使し、日々男を語る、少々暑苦しい友人に。 「男子たるもの…つって硬派気取ってるくせにあいつ委員長と妖しいんだよなー。 」 「そのくせ、そのことにつっこむとあわてて否定する。 おもしろすぎるよ。 まったく。 」 少年は見た月夜に映える白い少女を。 曰く「シャッターチャンスはいつくるかわからないからなー。 日々持ち歩くようにしてるんだよ。 」 と携帯していたカメラのシャッターをおもわず切る。 少女は膝の上に見知らぬ少年を乗せ、彼の髪をなでている。 撮らずにはいられなかった。 カメラの少年はふとポラロイドに持ち替えると、少年と少女をそのカメラにおさめた。 警戒心をあおらないよう正面から声をかけ、少女に歩み寄る。 「いやぁ、ごめんよっ?あまりにいい絵だったんで思わず撮っちゃったよ。 」 「これ、よかったらあげるよ。 」 少年はそういって少女に写真を手渡した 写真には自分とこの少年が写っている。 この少年との絆のような気がした。 少女は少年のポケットに写真をしまい込んだ。 自分との絆を少年に持っていてもらいたかった。 少年は眠っている。 そして、少年の未来はある意味確定していた。 「ん…此処は?」 僕たちの宿?いつ帰ってきたっけ? 自己防衛機構により記憶の一部が封印されていた。 「なにか…あったような?」 よっぽど疲労していたのかすでに日は高い。 日溜まりにいたシンジは暑いくらいだった。 「静かだな…。 」 ドタドタドタ! …って、アスカか。 ギィ…バタン! 「シンジ!!いつまで惰眠むさぼって…ん、なんだ起きてたの?残念。 」 ア…アスカ…寝てたら何するつもりだったの? 「結局昨日は収穫なし、まったく、このアスカ様が夜回りしてるってのにあいさつもなし、犯人も怠慢ねー。 」 「おいおい…それはどうかと思うぞ?」 「加持さん、おはようございます。 」 「ああ、おはよう、もう昼だがな?」 「それで、夜回りは今夜もするのか?」 「あったりまえじゃない!!犯人捕まえるまでやるわよ?」 ふぅ、いつになることやら?それはおいといて確認しとかなくちゃな? 「それでシンジ君、昨日の夜、何があったんだい?」 「えっ、昨日ですか?え〜と?」 なにかあったっけ? シンジ君?なにもなかったのか? 「いや、昨日なリリ…レイが現れた。 」 「レイが!?」 「魔獣女が?」 「ああ、君が呼んでるってすっとんでったぞ?」 「シンジ!何があったのよ!言いなさい!」 アスカ苦しい…首を絞めないで…。 意識が…。 おいおい、激しいな?ん? 「シンジ君、それはなんだい?」 「ん?シンジ、これ何よ?写真?」 「???」 … …… ……… ………… 『少女は膝の上に少年を乗せ、彼の髪をなでている。 』な写真だった。 こっこれは!?なに?おぼえてない!いつの間に?だれが撮ったの? シンジ君…君はレイといちゃつく為に彼女を呼んだのか?同情の価値なしだな。 『あの背筋が凍る思いをしてこれか!』 加持はこんなことの代償にリリス-レイとのやりとりがあったことに不満がありありだった。 シンジィ…あんたぁどうしてくれようか? ただじゃあすませないわよ? 思い出さなくちゃ駄目だ! 思い出さなくちゃ駄目だ! 思い出さなくちゃアスカに殲滅されちゃうんだ! 殲滅されちゃうの?誰が?僕? 思い出せば大丈夫?……無理だ! ああ太陽が眩しいなぁ。 僕は明日の朝日を拝めるだろうか? ああ…天国の母さん…。 僕は星になります。 … … … んーんー、加持だ。 シンジ君の現実逃避した思考な、それほど過大解釈でもなかったぞ。 俺はいくつもの修羅場をくぐり抜けたつもりだった。 以前はそのことが誇りだった。 訂正しよう俺はまだまだアマちゃんだ。 もう修羅場はくぐりたいとすらおもわない、俺はまだ逝きたくないからな。 そして、先ほどまで俺の目の前に修羅場があった。 断言しよう。 リリスとタイを張る。 魔獣並みだ。 俺、傭兵やめよっかなぁ…農業でもやるかなぁ…西瓜でも植えるか?…。 」 『いいんです、加持さん、何も言わなくて、あのときのアスカは誰にも止められませんから…。 』 『すまない…俺は命の恩人を見捨ててしまったかもしれない…。 』 『……そうかもしれませんね?』 『シンジ君?どうした?…もしかして?怒ってるのか?』 『そんなことはないかもしれませんよ?たぶん。 』 『怒ってるんだな。 だがしかし、わかってくれ!! リリス並みだぞ?俺に何が出来るって言うんだ?』 「なに男同士で見つめあってんのよ!気色悪い!」 「あ〜あ、全く…シンジのせいで丸一日そんしちゃったじゃない!」 ぼっ、僕のせいなの? あ…あいかわらず容赦なく厳しいな…。 「あっ昨日…じゃない一昨日何があったか思い出したんです。 」 ピクッ 「へ、へぇ〜…『シンジ君のいちゃつき紀行』でも始めてくれるのかなぁ〜?」 「そっそんなんじゃないよ。 」 否定に力強さがなくなってきてるな。 ここんとこ続いてるしな? 「なんで忘れてたかって言うと、思い出したくなかったからなんだ。 」 「それにとても怖かった…。 」 『何故思い出したんだい?』 『言わないでください、加持さん。 』 『わかってるさ、100度の熱湯かぶった直後だ、50度のお湯なんてぬるま湯みたいなもんだろう?』 『ええ、あれに比べればアレなんて可愛いもんです。 』 「それで何があったのよ?」 …… …… ……… ……… ………… ………… 「はぁ?男にせまられたぁ〜?あんた馬鹿ぁ〜!」 「ほっ、ほんとに怖かったんだよ!!」 加持がポンッとシンジの肩に手をそえる…。 「気持ちはわかる…俺も初めての時は怖かった…。 」 ズサァァァ シンジもアスカも加持から距離をとる。 シンジはおびえてアスカの影に隠れようとする。 アスカは汚いものでも見るかのような目で加持をにらみつけ、シンジを後ろにかばう。 「ん?どうした?」 「ストップ!それ以上近づくとただじゃぁおかないわよ?」 「まさか、こんな処に超危険産業廃棄物がいたなんてね?」 「ちっちがう!!俺はノーマルだ!!」 「自分自身でふつうだって言う奴が一番危険なのよ!あんたシンジをねらってたのね?」 「…ちがう…俺もせまられたことがあるんだ…あの怖さは経験者にしか語れない…。 」 同類相哀れむ。 シンジと加持に奇妙な友情が生まれた。 「加持さん…。 」「シンジ君…。 」 「どうでもいいけど、あんたたち、それは真性っぽいからやめときなさい…。 」 「?」「ごほん!…それもそうだな。 」 …… …… …… 「……で、レイが助けに来てくれたんだ。 それからのことは良く憶えていない…。 」 嘘だった。 しっかり憶えていた…レイとのキス、暖かかった…。 アスカに知られるわけにわけにはいかない…お仕置きにはもう耐えられそうにもなかった…。 「シンジ、あたしのいないとこでいちゃいちゃしようもんなら…わかってるでしょうね?」 ビクッ 『目の前でいちゃついたらどうなるんだい、アスカちゃん?』 加持はわかりきったことを心の中でアスカに問いていた。 自身の欲望が充足されて、うれしくてうれしくてしょうがないそんな表情だった。 まばらに備え付けられた照明が長く、長く、男の影をおとす…。 「なんだ?もうあきらめちまったのか?…くっくっく……。 」 男は狩人だった。 そう、人間が標的の…。 『どうして?…たすけて!』そんな言葉を語り尽くして、ただ絶望に疲れ切った獲物に対して、ようやく男はその答えをこの犠牲者に与えた。 「狩りはねぇ…人間を狩るのが一番おもしろいんだよぉ…。 」 その結果は…最悪だった。 理由はおもしろいから、そしておもしろいから逃さないと言っているのだこの狂人は。 「人間は表情がいい…。 」 恍惚とした容貌で男は語る。 「はじめはね、怒りとか、驚愕とかなんだよ?そしてね?焦燥、嘆願、おわりには絶望や狂気…気が触れちゃうこともあるんだ。 」 「他の動物じゃねぇ…よくわからないんだよ…表情がね?」 「そんなのおもしろくないでしょ?」 「だから、人間がいい…。 」 狂ってる、人殺し…あらゆる罵倒を投げつけた…。 でも無駄だった。 この男にとって禁忌に触れる事柄などあるのだろうか? 死にたくなかった。 今でも、死にたくはない! しかし、もうあきらめていた。 なにもかも……。 今、私が思うことは…。 誰かこの醜悪な男を殺して…。 そして、私は何も考えなくてもよい世界に意識を囚われていった…。 「で、アスカはまだその殺人者の捜索続けるの?」 シンジは心持ち心配そうに尋ねる。 しかし、加持には人間にアスカが殺せるかどうか疑問だった。 テーブルについて頬杖をついていたアスカは気だるそうにシンジと加持の方へ視線をやる。 「そうねぇ、結構入れ込んでたけど、それほど意味があるわけないのよねー。 」 「まあ、今夜ぶらついて何も引っかからなかったらおしまいってとこでどうかしら?」 「そんなとこが妥当だろうな。 警察の仕事でもあるわけだし。 」 とても警察をあてにしているようには見えなかった。 「今夜で終わりなんだね。 」 今日で打ち切り…しかし、そんなときに当たりを引いてしまうのはやはり彼だった。 はぁ、いつも、トラブルに巻き込まれるときはアスカが発端なんだよなー。 初日はアレ、次はあれ、3度目の正直なんてなりませんように…。 アスカ嬢がことを起こさなくても、どのみちトラブルは彼のもとへやってくると伝えたらこの少年はなんと言うだろう? 『誰か僕にやさしくしてよっ!』 んっ?電波か? 加持とシンジは度重なる心の対話のすえ、かなり以心伝心だった…。 『シンジは下水道かどこかに人を引きずり込み、血肉をすするアスカが思い浮かんだ。 』 シンジはかつて自分がそんなことを考えていたのを思い出した。 なんかだいぶ前のことのような気がするなぁ。 でもレイは助けてくれたし、そんなに危険じゃないみたいだ。 よかったな…。 『そんなことはないぞ!』 誰? 加持からの天啓だった。 うん、下水道かぁ、いかにもって感じだよね? 覗いてみようか? こうしてシンジは蜘蛛の巣にかかった蝶がのたうち回ってさらに巣に絡まるがごとく、墓穴を掘って、自ら埋まりにいったのだった。 すっかり夜のお散歩だった。 ん? 「シンジ君は?」 「あれ?さっきまでいなかった?」 「姿が見えないんだが。 「ここはどこ?」 私は誰?ってじゃない!やばい!やばいじゃないか? また、みんなに迷惑掛けたら……。 彼の日の出来事がありありと浮かぶ。 お仕置き…? いやだっ!お仕置きはもういやだ! 何とかしなきゃ。 そうしてシンジはアスカの酷評どうりにより危険な方へと歩をすすめていった。 ぼ…僕って、のろわれてるの? 「やぁ、こんばんは…。 」 にやにやと嫌らしい笑みを浮かべるその男の横にはできたてほやほやの元人間があった。 「いやぁ、こんな月夜の晩は狩りがしたい。 そうおもうことはないかな?」 仕留めた獲物の反応が気に召したのか、それともそれがふつうの状態なのか男は喜色満面であった。 そんなこと笑顔で聞かれても…? どう答えてもやばい結果しか返ってこないような気がした。 「狩りですか?」 「そう狩り…私は人間を狩るのが好きでねぇ。 良くやるんだよ…。 」 やばいよ、この人!なんとか時間を稼ぐんだ! アスカ、加持さん、レイ!早く来て! 「ひとりなのかな?」 きっ、来た! 「いいえ、連れがいます。 」 「そうか…きみはその連れを殺してみたいって思ったことはあるかな?」 なにを聞くんだ? 「ア…アスカを?」 「君の連れはアスカっていうのかね?」 「ええ、そうですけど…?」 「仲間や友人を殺すとき、どんな表情をするのか?君は興味はないかな?」 狂ってるよ!何てこと聞くんだ! 「そんな!? 、そんなことないです!!」 「そうか、では、君が死んでしまったら、その彼女はどんな表情をするだろう?」 な…なんだ?先行きが怪しくなってきだぞ? 「そんなこと…わかりません!」 「わからくてもいいんだよ?」 なにを言う気だ? 「私が代わりにそれをみてあげるから…。 」 ……そう来たかっ!? 「加持さん!シンジ、見つかった?」 「いや、いない。 」 「あの馬鹿…どこ行ったのよ?」 シンジ君どこに行ったんだ!? アスカちゃんが心配してるぞっ!早く戻ってこい。 「とにかく見つかるまであきらめない。 それでいくぞ?」 「当たり前よ!!あきらめてなるもんですか!!」 そう、その調子だ、すぐに見つかるさ、きっとな? <碇君…まってて…すぐ、行くから…。 なんだ?レイ!? 「!!」 「アスカちゃんどうした?」 「眠い…。 」 どうしたんだ? アスカの姿がぼやける。 闇に溶けるように色素が抜けていく…。 其処にいたものは、 かつて白銀の魔獣であったものであった…。 「リ…レイか!! 」 「…だまって…。 聞こえないわ…。 」 だまれ?聞こえない?なにがだ? 「碇君…。 」 「なぜ、シンジ君のことがわかる!」 「…ひとつだから…。 」 ひとつ?わけがわからないな? よくシンジ君はこんなのとコミュニケーションがとれるな? 才能か? 「…あなたも…くる?」 「ああ、連れてってもらおう。 」 お手並み拝見だ。 レイの背中から光の粒子が瞬く、両腕をひろげ、目を閉じて何かを感じ取っているようだった。 光があつまる、個々の粒子が翼を形成するために。 そして翼が完成される。 此処までの時間はそうかかっていない。 あまりに印象的で語るべきことが多すぎるからだ。 本当にこの少女があのリリスと同一の存在なんだろうか? あまりにその力に対する雰囲気みたいなものが違いすぎる。 あまりに壮麗だ。 うっ、ぐう! レイは加持の服の襟を無造作につかむとふわりと浮いたかと思うと、すさまじいスピードで飛翔した。 くう…、俺のことなど、お構いなしか? それにしても葛城とタイを張るな…これは。 この分だとあっという間だぞ。 ……俺はちゃんとおろしてくれるかが心配だよ。 放り出されたりしないだろうな? 加持をぶら下げたレイは空中に停止する。 更に細かく少年の位置を探ろうとする。 見つけた! 魔獣の少女はその少年との最短距離を進む。 おい!まじか?其処は地面だぞ?おい? ドガァァァァン!ガラガラガラ……。 なるほどシンジ君は地下か。 シンジ君一直線なわけだな? そして、シンジにとって待ち望んでいたものが其処に現れた。 「ほう、君は…何かをまっているのかな?」 「誰が来ても…無駄だと思うがね……。 」 そんなことあるもんか!アスカは魔獣並みなんだぞ!? シンジ少年はここに来てずれた思考を繰り広げていた…それは少年の生まれついてものなのか、ただ非常事態時に混乱しているのかは不明だが、おそらく天性のものであるだろう。 そして少年に救いの手をさしのべたのは魔獣な少女ではなく、魔獣そのもの…白銀の魔獣であった少女だった。 にやけた顔がここに来てようやく別の表情、驚愕の表情にとってかわる。 「これは驚いた。 」 しかし、またすぐにもとのにやけ顔にもどる。 シンジは違和感があった。 そう、この殺人狂のことだ…レイは地下水路の天蓋を破壊し、いまは羽まではやしてる。 いくら狂人といっても人間が相手であったはずだ。 レイをこんなふうにいうのはいやだが、明らかに人あらざる者の力と雰囲気を身にまとっている。 それなのにこの男はあまりに冷静だ。 「君は…うん…リリスかね?」 「私は…リリスじゃない…。 」 「いや、君はリリスだ、うん、間違いない。 」 「驚いた。 こんなところで同族にあえるなんてなぁ。 」 同族?こんなのがレイと同族? 「違う!おまえとレイをいっしょにするな!」 「違う?いや、同じさ。 君が我々のことを知らないだけだよ。 」 その男は30半ばの中年男であった、髪も瞳も普通の人間と変わらない…。 しかし、シンジのおもいを裏切るかのように髪は白く、瞳は赤くなっていく。 どこかは虫類を連想させる目だ。 肌も白く色素が抜けていく。 容貌が見る見る変わっていく中で、男のにやけた笑みだけは変わらず残っていた。 「教えてやろう。 我々のことを。 」 「君は私が殺人狂だとおもうかね?おもってるだろう?それが間違いなのだよ。 」 「私は人間などどうでもいいのだ。 」 「何故かとおもうかね?」 「私のこの宿主がね?そうなんだよ。 」 「私がこの体に住む前から男は殺人の虜になっていた。 」 「はじめこそは、私という存在に戸惑っていたようだが。 私が何者かをしると驚喜していたよ。 楽しみがやりやすくなるってな?そうやってこの男は自ら望んで私と同化したのだよ。 人間を狩るのに人間である必要はないからね?」 「模倣に過ぎないのだよ、少年。 」 「我々は宿主の心をうつす鏡…肉体に命を縛られたりしないかわりに、肉体に精神が左右される…されざるえないのだ!」 「キールと言う男が私をダブリス…と呼んでいたな…。 」 「そう、キール・ロレンツ!あいつが求めた完全生命体、その前駆体の雛形。 それが我々なのだ。 」 キール・ロレンツ!セカンドインパクトを引き起こした魔導師! 「リリスが君に執着するのもその宿主自身が執着しているからにすぎんのだよ。 」 「我々の存在意義など、どこにあるというのだ!私はにくい、私を生み出したキール・ロレンツが、キールがそうであった魔導師もにくい!人間がにくい!」 「そして…こんな私の想いすら仮初めのものやもしれんのだ……。 」 「キールは自分自身が完全生命体になりたかったようだな?自分用に意志のない肉体を…ダミープラントだったか?そこにつくったと言う噂があるが、どのみちセカンドインパクトで失われてしまっているだろう。 そもそもそんな噂に踊らされるほど私は愚かではない。 」 「私はこの宿主に引きずられ人間に復讐するしかないのだよ!」 男は笑った…にやけた笑みではなかった…本当に、かわいた笑いだった…。 「借り物のからだ…仮初めの想い…それでも私は構わない…。 」 「なんだとっ!」 「仮初めでも私の想い……そして…其処にあるぬくもりは本当のものだもの…。 」 「碇君は…渡さない…。 」 「私が…………………………たべるもの………。 縛られ、多少衣服が乱れた少年への少女からの口づけ。 』 あれは何だったの?キスじゃないの? 味見? それとも、「これはわたしのもの」っていうマーキング? 『我々は宿主の心をうつす鏡…肉体に命を縛られたりしないかわりに、肉体に精神が左右される…されざるえないのだ!』 ……とすると……? レイの行動(観測の結果)+アスカの意志に左右される(与えられた条件)=アスカも僕を食べる?(問題提起) アスカは僕を食べる(仮定)+アスカは魔獣並み(事実)=僕はアスカに食べられる。 」 「ぬくもり?そんなもの人間にあるはずなかろう!? まやかしにすぎん!」 「さみしい?…あなた寂しいのね?」 「でも、碇君はあげないわ。 あなた用済み…。 」 レイの力が具現化する。 左手にちいさな小さな光が生まれたかと思うと、一気に1mほどの三日月が形成され、それがダブリスに向かって放たれる。 力と力の干渉…そして、静寂 「さよなら…。 」 甘かった…魔獣リリスであった頃から、レイに敵はいなかった。 彼は同族なのだ。 自分と存在を同じくする者…レイには認識が足りなかった。 ダブリス…彼は同族の存在を知っていたし、彼女が同族であることも理解していた。 リリスの力を充分警戒していたのだ…。 かつて男であった者の姿が変化する。 は虫類に昆虫の甲殻をつけたような姿…軟体動物にあるような触手をもっていた。 レイは不意をつかれた。 変容した姿に呆気にとられたわけではない。 自分が攻撃を加えた者がまだ存在するのが不思議だったのだ。 レイは翼による衝撃波を見舞う。 ダブリスの力が具現化する。 雷撃だ。 空気が膨大なエネルギーを受けてイオンに電離する。 生成したプラズマが空気の層をつくり、翼の衝撃波をいなす。 ダブリスに対する牽制としては力の練り具合が足りなすぎた。 ダブリスの雷撃がレイに向かう!! 翼を前であわせる。 防御用に力を何層にもわけて展開する。 たりない……!! レイの意識はホワイトアウトしていった。 「同化もなってないような不完全な状態で俺に勝つつもりだったのか?笑わせる。 」 しゃがれた声が地下水路に響く…。 「おまえたちの存在は俺の思考を著しく乱す。 」 「だから、死ね!」 シンジはレイが心配であったが自分の方もやばい。 は虫類そのものの目線に貫かれシンジの動きは止まっていた。 <なによあれ!!シンジになにしてんのよ!? > <くっ…なんで、あたしの体…動かないのよ!!> 『あなたの体じゃないから…。 』 <なによ!どういうことよ!…あんた…私にとりついた魔獣女ね?> 『私はレイ…あなた…キーキー、うるさい…お猿さんね?』 <誰がお猿よっ!さっさとシンジを助けなさい!> 『わかってるわ…。 すこし、黙ってて…。 』 <それにしても何でいきなり会話できるようになったんだろ?> 『おそらく、先ほどの雷撃…。 』 <雷撃?あんたそれ喰らったわけ?そんなんで大丈夫なわけ?> 『私より彼の方が力が大きいみたい…。 』 <なっ!何とかしなさいよ!> 『何とかすれば……あなた…消えるわ…。 』 <何ですって!? > 『私はまだあなたとの同化を果たしていないから…。 』 <同化したら消えるっていうの?> 『存在が変わるって言った方がいいかもしれない…。 』 <…あんた、なかなかやるわね?…レイって呼んであげるわ。 > 『…そう…。 』 <要するに一つの意志で体を動かせばいい…。 協力しましょ?> 『そうね…価値はあるかもしれない…。 』 <あいつをへこませるわよ!> 『ええ…。 』 「だから、死ね!」 シンジは死を覚悟した。 「なに!?」 レイの力とアスカの防御障壁による二重の防壁だった。 ダブリスの力はとどかない。 間をおかずにレイ・アスカは攻撃に移る。 レイの力をアスカの意志力で具現化…レイの周囲にいくつもの死の三日月が浮かぶ。 全方位攻撃…正面の攻撃をそらせるだけで、手がいっぱいだったダブリスは他の刃に肉体を削られた………。 「なっ…、なぜだ!まだ同化を果たしてはいまい?何故、これほどの力がふるえる?」 レイ・アスカが協力状態にある以上、無敵だった。 「碇君を守るためだもの…。 」 シンジの命運をかけたレイとアスカの同盟は強固だった。 「あなた…もう…おわりね?」 「碇君は私のもの……私が守るの…。 」 <だっ、誰があんたのもんですか!> 『シンジの命運をかけたレイとアスカの同盟は強固だった。 』 …あっさり破棄された…。 <それにまだ終わってないでしょうが!協調乱すようなこと言わないでよ!> 「乱れる?私は乱れたりしないわ…乱れるのはあなた。 …そう、あなた乱れてるのね?」 <乱れてるってなによ!!やらしい!やらしい!!やらしい!!!> 「やらしい?わからないわ?あなた…やらしいの?」 レイは声に出してアスカと会話していた…。 場所をわきまえずにも、シンジの脳味噌のなかは妄想にバラ色だった…。 「そう…あなたも碇君が食べたいのね?」 <食べるって…。 シンジを?> 「そう、一つになること、それはとても気持ちいいこと…」 <シンジと…ひっ…ひとつに…?> 「満たされることなのね…。 こころもお腹も…。 』 気持ちいい? ひと思いに食べちゃえばいっそのことすっきりするって思ってるんだぁ!! 『満たされることなのね…。 こころもお腹も…。 』 お腹!!……確定だ…。 僕はどうすれば…いいの? どうにか…出来る…? 無理…だよね…。 レイ、アスカ……痛く…しないでね…。 ピンクな思考に浸り甘美なときを過ごしていたレイとアスカはおかんむり。 <いいところなのに、邪魔しないでよ!!> 「あなた、邪魔…。 」 シンクロした意志が二人の力の和ではなく、積となってダブリスに向かう。 そうして、ダブリスの肉体は塵に返った…。 そろそろ出して欲しいんだがな? レイに連れられてきたはずの加持は瓦礫の隙間からの救助をまっていた…。 」 「そうか。 」 「あたしもいつまでもこんなのに居候されるわけにも行かないしね?」 俺はどうするかな……そうだな…あいつにでも会いに行くか、久しぶりに。 加持は遠い目をして、遠くに思いを馳せている…。 「うん、ダミープラントが見つかれば、レイの体…何とかなるかもしれないね。 」 「馬鹿ねぇ、なんとかするのよ!」 (あたしの体使ってシンジにちょっかい出されたらたまらないのよ!) (あんたを他の体に追い出したら正々堂々、殲滅してやるわ!シンジはわたさないわよ?) <殲滅?無理ね…あなたお猿だもの…。 > (お猿って何よっ!全然関係ないでしょうがぁ!! ) <そう…関係ないのは…あなた…碇君とは無関係…。 > (なによそれ!いやらしい!あんたシンジと関係持ってるように聞こえるじゃない!) <私は碇君(の心)と一つ…だもの、あなたは一つじゃないわ…。 > (ちょっと、ちゃんとかっこの中まで言いなさいよ!誤解されちゃうじゃない!) <誤解じゃないわ…碇君はいずれ私がたべるもの……。 > (そんなことさせるもんですかぁ!! ) そうして、狩人たちの旅は始まった。 ……………って獲物は僕じゃないかぁ…。 」 「僕と一緒にくるかい?シンジ君に会いに。 」 深夜、地下水路付近に一人少年がいた 薄焦げ茶色の髪に濃い緑の瞳をかつて持っていた少年。 薄焦げ茶色の髪はくすんだ銀髪に、濃い緑の瞳は紅く、そして白い肌は更に色素が抜け落ちていた…。 薄焦げ茶色の髪に濃い緑の瞳の貴族の少年はもういない…。 シンジ君…待ってておくれ。 もちろん、シンジ君への愛も変わらないよ? 擬似人間メルティアシリーズ「私の中の魔獣」(富士見ファンタジア文庫 対馬正治著)を基本プロットに用いております。

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【Official髭男dism(ヒゲダン)/Pretender】の歌詞の意味を解釈

それじゃ君にとって僕はなに

36 私には、弱点がある。 認めるのは不本意だけれども、克服したいのはヤマヤマだけれども、しょうがない。 ……ああ、憂鬱。 今日も頭が痛い。 「やあリディア。 今日も可愛いね」 「……あのね、エドガー。 窓は玄関じゃないのよ。 窓なのよ。 何度言えばわかるの?」 「だって、妖精はこの窓から入ってこれるのに、僕だけ玄関からしか入れないなんて不公平じゃないか」 なによその理屈は。 「あなたは妖精じゃないじゃない」 「妖精には許されていることが僕には許されないなんて、納得できない」 「……あ、そう」 「今日も仕事はないんだろう? 遊びに行こう」 悪かったわね。 今日も仕事がなくて。 「行かない」 「あいかわらず冷たいね。 リディア。 そんなところも可愛くて大好きだけど」 「……あのね、エドガー。 何度も何度も何度も言うけど、あなたは伯爵家の嫡男なんだから、女の子ならよりどりみどりでしょう? こんな変わり者の幼なじみにかまってないで、もっと可愛くて素敵な女の子を誘ったらいいじゃないの」 「僕も何度も何度も何度でも言わせてもらうけど、僕にとって世界で一番綺麗で、可愛くて、魅力的な女の子はリディアだけなんだよ」 きらきらと灰紫の眸で真摯にみつめられれば、慣れていても心臓の跳ねる音がする。 エドガーのことはきらいじゃない。 どちらかといえば、好きだと思う。 つきあいも長いし、妖精博士なんていう世間から見ればどう考えてもうさんくさい職業でもまるで気にしない。 それは昔からだった。 妖精の見えるリディアを「うらやましい」と言った、初めての男の子。 「でも僕は、見えなくてもいいや。 リディアがいるからね」 「それ、どういう意味?」 「リディアが僕の妖精だってこと」 それが、思えば最初の口説き文句だった。 あれから何年が経つのだろう。 幼なじみの伯爵は毎日のように窓からあらわれて、甘い言葉を紡いでいく。 「その割には、いろんな女の子を口説いているみたいだけど」 「それはもちろん、いつかリディアが僕の思いに応えてくれたとき、エスコートの一つも優雅にできないようじゃ困るじゃないか。 だから、予行演習みたいなものだよ。 心配しなくても、僕の心はいつでもリディアだけのものだよ」 「そういうの、一般的には不誠実って言うと思うけど」 「一途って言うんだよ」 「……」 リディアの冷たい視線にも、エドガーはちっとも動じない。 「今日、ニコは?」 「散歩よ。 もうそろそろ帰ってくるんじゃないかしら」 「いいなあ。 僕も、一日でいいからニコになってみたいな」 「どうして?」 「リディアに『お帰り』って言われたり、抱きしめられたいから」 「……ニコは抱きしめると、猫扱いするなって怒るわよ?」 「だいじょうぶ。 僕は怒らないから」 なにがだいじょうぶなのか、リディアにはさっぱりわからない。 けれど。 「一日でいいの?」 エドガーにしては殊勝な態度だ。 するとエドガーは力強く頷く。 「猫じゃあ、リディアの恋人にはなれないじゃないか」 「ああ、そう」 人間だって、するつもりはないわよ。 「ねえリディア」 エドガーはひょいっとリディアの手を取って、その甲に口づける。 あまりにも優雅であたりまえのしぐさに、思わずリディアは言葉を失った。 しまった、不意をつかれた。 微笑と、逃げることを許さない強い光をたたえた瞳に、動けなくなる。 「僕はいつまでだって待てるけど、早いに越したことはないんだよ。 だから、そろそろ認めたらいいんじゃないかな」 「……なんの、話よ」 「リディアは、僕のことが大好きだって話だよ」 この男は、絶対に口から生まれてきたに違いないわ。 「ずいぶんな自信ね」 「そりゃあ、僕はリディアのことならなんでもわかるもの」 「盛大な勘違いだと思うわ」 「つれないね。 でも、僕はきみが大好きだよ」 何度言われても慣れない言葉だった。 甘い声。 甘い言葉。 甘い吐息。 じんわりと、やさしく握られた手が熱を持つ。 「……愛してる。 僕の妖精」 うそつき。 そんなの、誰にだって言ってるくせに。 ……わたしだけじゃ、ないくせに。 エドガーにとって、「愛してる」は特別な言葉じゃない。 だけど、わたしに言う「愛してる」だけは、少しだけ違う。 そんなふうに、「大好き」って言葉を紡ぐより、少しだけ緊張なんてしないで。 瞳をふるわせないで。 気づいてしまう。 わかってしまう。 いっしょにいるから。 いっしょにいたから。 ……ずっとずっと、見ていたから。 だから、ほんとうは、うそつきじゃないって知っているけど。 近づいてくる唇を、かろうじて避ける。 「……まだ、キスもだめ?」 「だめ」 「僕からするのがだめなら、きみからしてくれてもいいけど」 なんでそうなるのよ。 「素直じゃないなあ」 「わたしはいつだって正直よ」 「それが、素直じゃないって言ってるんだよ」 「じゃあ、もっと素直な女の子を口説きなさい」 「心にもないことを言うのは身体に悪いよ。 リディア」 だから、どこからくるのよ、その自信は。 リディアはためいきをつく。 素直、と言われても。 そんなの、なれるわけないじゃないの。 「ねえリディア」 「なに」 「僕がほかの女の子と遊ぶの、実はとっても気に入らないでしょ」 「……べ、つに。 なんとも思わないわよ」 「リディアは嘘がへたくそだね」 悪かったわね。 「僕がほんとうはきみしか見てないって知ってても、きみだけを愛してるってわかってても、やっぱり面白くはないでしょ?」 だからなによ。 「だから、早く僕を縛りつけていいんだよ?」 それができるのは、リディアだけなんだから。 ……そんなこと言われても、そんなこと、きっと一生できない。 リディアがずっと気にしてること、許されないって思ってること。 やっぱり、これも何度でも言うけど、僕にはどうでもいいことなんだよ。 きみの心が手に入るなら、どんなに大変なことも笑顔でかわしてみせるから」 やめて。 泣きそうになる、そんな顔を見られたくなくて、顔を背けたいのに、エドガーは許してくれない。 言ってしまいそうになる。 こらえられなくて、こぼれて。 その胸にとびこみたくなる。 すべてのしがらみを捨てても。 ひとつぶ、耐えられなかった涙を、エドガーがぬぐう。 「……僕は、きみを泣かせてばかりだ」 わたしは首を横にふることしかできない。 哀しくて、やるせなくて、切なくて、泣いてしまうこともあるけど。 うれしくて、どうしようもなくしあわせで、泣いてしまうこともある。 思わず笑顔がこぼれてしまうこともある。 心がこんなにゆさぶられるのは、あなただけだから。 抱きしめられる。 この胸の中では、なんの抵抗もできなくなる。 あたたかくて、やさしくて、幸福な香りに包まれる。 「泣かないで、リディア」 「……泣いて、ないわよ」 「涙声で言っても、説得力ないね」 「……」 「僕もまだまだ、修行が足りないね。 なるべく泣かせたくないって思ってるのに。 気持ちばかりが焦る」 気持ちだけ? じゃあ、この抱擁はなんなのよ。 抵抗できないの知ってるくせに。 「ねえリディア。 泣きやんだらスコーンを焼いてくれる?」 強引なくせに、最後にはいつでも、そんなふうに逃げることを許してくれる。 心が、こらえられなくて悲鳴を上げる。 あなたが好き。 この思いを伝えられたらと思う。 そうしたら、こんなに苦しい思いをしなくてもいいのに。 逢いにきてくれることがうれしくて、でも痛くて、歓迎の言葉ひとつかけられない。 あなたが好き。 大好き。 だから、もうすこしだけ。 全部なんて言わないから、……あと、もうすこしだけ。 この、やわらかな幸福を、だれもうばわないで。 とびきりにおいしいスコーンを焼いてみせるから。 あとがき えーと。 これは「伯爵と妖精」という小説の「もしもエドガーとリディアが幼なじみだったら」というパロディです。 ふたりが幼なじみだったら、エドガーとリディアは今よりかはお互いを分かり合っているんじゃないかと。 そんな話です。 幼なじみだと、エドガーは原作より強気です。 攻め攻めです。 弱気になんかならないのです。 みたいな。 ……リディアもエドガーの気持ちを疑うことはしないけど、身分差がどうしても尾をひいて一歩は踏み出せないんじゃないかしらと。 なによりエドガーに自分のせいで恥を書かせたくないとか思っていそう。 なので、パロディでも両片思いです。 でも甘かったような気がする。 自分ではよくわからない。 早く続きが読みたいんですが、いつでるんでしょうかねぇ。 ねえ、ああ……泣。 まあエドガーが甘い台詞を吐きまくるんであたしはもー恥ずかしくて恥ずかしくてどうしようもありませんでしたよ……。 「かかせんなこんなこと!」みたいな。 でも大好きですけどね。 うふふ、うふふ、うふふ……。 ではでは、そういうことで。 ちょっとでも気に入っていただけたら幸いかと思いますです。 コメントありがとうございます。 『好きになる〜』も読んでくださったんですね!ありがとうございます〜^^ ほほう。 壱岐くんカッコいいですか。 言われてみるとそんな気がしてきて、いまはもう、「なるほど。 壱岐はカッコいいんだな」と思っていますが、書いている当初は「ヘタレだなあこいつ」と思いながら書いておりました(酷)。 でも、そうですね。 「クラスの人気者」「さわやかくん」というのをイメージして、ちょっと不器用だけれど、誠実な人柄が出るように、とそれは気をつけて書きました。 日和はねー。 おおむね受け入れられていましたが、りんごさんのように、「あれだけ嫌いって言ってたのに」は、私も気持ちわかります。 なので、日和も、「あれだけ嫌いって言っといて」って気持ちがまだあります。 罪悪感、っていうんでしょうかね。 壱岐もそれがわかっているので、あまり強くは責めないみたいです。 それよりやっぱり、「好き」がうれしいんでしょう。 ベタ惚れだから!(笑) えー。 ちなみに番外編に元カノは出てきませんよ。 番外編は江藤さんの話です。 そのあと、続編がありまして、そのままページ進めば読めるんですが、そこで元カノ出てきます。 途中ですけどね。 どうぞお楽しみくださいませ。 人としては、壱岐の圧勝なんでしょうが。 まず腹黒さで勝てませんからね。 星野くんより黒いですし。 けっこういやなやつだなんてそんな。 ものすごくいやなやつですよ、やつは!(断言) もなも大変ですね……これからも大変です。 基本的に、大変じゃないときあんまりないんじゃないかなと……かわいそうにと思いつつ、如月がもなをいじめてもなぜかあんまり非難されないので、気楽にいじめています(こらこら)。 これからもがんばります! ではでは〜^^.

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ハダカメラ2巻の全話ネタバレと結末!君にとって僕はただの友達!

それじゃ君にとって僕はなに

心操へ心を打ち明けた後、出久は食堂で食事を取ろうとしていた。 「出久さん、こっちですわー!」 麗日と芦戸、葉隠と耳郎と共に食事をとっている八百万が出久を見かけると呼びかける。 周りの生徒たちはクスクスと笑うが出久は気にすることなく席に座る。 「ありがとう、百ちゃん。 」 「いえ、お気になさらずに。 それよりも皆さん出久さんにお聞きしたいことがあるそうなので知っていれば答えてくれませんか?」 「僕に?なに?」 最初に喋り出したのは麗日であった。 「梅雨ちゃんが職場体験の時にベルトで変身する自警団に出会ったんだって。 でも名前が出久君のヒーロー名の仮面ライダーって名前だったから気になって。 」 「(もしかして鴻上会長が言っていた・・・・・)その仮面ライダーの名前は?」 「アクアって言うらしいよ。 」 「ウチのところは宇宙飛行士みたいなフォーゼだったよ。 」 麗日に続いてしゃべったのは耳郎であった。 「わたくしのところには緑と黒のWと言う方でしたわ。 正直、あれほどの実力を持っていながら何故・・・・・・」 八百万が考えていると出久は強引に押し通そうとした。 「もしかしたらステインみたいに正義の価値観が違うのかもしれないよ。 」 「と、言いますと?」 「大抵のヒーローはお金がもらえるから活動してるって感じだよね。 でも原動力が金がもらえることが前提ってのがステインが生まれた根本的原因だと僕は思うんだ。 見返りを求めず、誰かのために全力で自分を犠牲にできる。 それがステインが理想と掲げたヒーロー像なんだと僕は思うんだ。 」 ステインの行動は確かに過激ではあったが理解できないわけではなかった。 しかし、それを実現するために殺人を犯してしまったことは大きな間違いであった。 「・・・・・・・・・飯田さんには失礼かもしれませんが、そうなんでしょうね。 」 「そうだね。 」 八百万の言葉に芦戸が納得する。 「ところでさ、出久。 アタシたちと一緒に強化合宿に行くの?」 「うん。 先生がヒーロー科に編入するから参加した方がいいって話してたし。 」 「そっか!じゃああたちたちと一緒に参加するんだね!」 芦戸の言葉に麗日、八百万、葉隠はうれしそうな顔をする。 「でもその前にヒーロー科って実技試験があるんじゃなかったっけ?」 その言葉を聞くと一同一瞬で不安な顔になる。 「多分だけど僕は今回先生たちと戦うんだ。 」 「どうしてそう思うの?」 出久の考えに耳郎が問う。 「聞いた話だと今まではロボって話だったんだけどUSJでの事件やステインの事件を起爆剤ににして敵たちが活性化しているらしいんだ。 そう考えるとより実戦的に各自の苦手分野をぶつけてくると思うんだ。 」 「なるほど。 」 その言葉に一同納得する。 「それじゃあ僕は食べ終えたから教室に戻るね。 」 ごちそうさまを言って出久はその場を後にした。 放課後の廊下を出久が歩いているとオールマイトに呼び止められた。 「緑谷少年、ちょっといいかな?」 「オールマイト、どうかしたんですか?」 「ちょっと。 」 オールマイトは視聴覚室に出久を招く。 「鴻上会長から話は聞いている。 向こうの方からこっちに臨時助っ人のことも聞いてはいるが、もう一人来るという話は聞いている。 」 「もう一人?」 「ああ。 こちらの方ではあまり馴染みがないが戦場のような場所での応急処置となると必ずと言っていいほど道具が足りない。 そんな状況でも治療できるように教えられる先生を呼んだのさ。 」 「それが俺ってこと。 」 出久はその声を聴いて後ろを振り返る。 そこには物陰から姿を現した伊達明の姿があった。 「伊達さん!」 「よっ!久しぶり、出久ちゃん。 また血を吐いたって聞いたけど無茶し過ぎじゃねーの?」 伊達は出久の体を触り出久の健康状態を確認する。 「今んところは大丈夫だな。 だがあんま無茶するんじゃねーぞ。 お前、無茶するたびに寿命を少しずつ削っているんだから。 」 「気を付けます。 」 出久の簡単な診察を終えた伊達はオールマイトの方を見る。 「んで、オールマイトさん。 わざわざ俺を紹介するためにこんな防音対策取れた部屋に招いた訳じゃないんだろ?」 「・・・・・・・・・・察しが良くて助かるよ。 座ってくれ。 」 オールマイトに促され二人は対面する形で座る。 「君達には話しておかないといけないと思ってね。 オール・フォー・ワン。 」 「皆は自分のために・・・・・・・直訳するとそうだが・・・・・」 「オールマイト。 もしかして・・・・・脳無を生み出した奴ではないんですか?」 「その通りだ。 超常黎明期、まだ社会が変化に対応しきれなかった頃の話だ。 」 「当然時代は混沌とするわな。 」 「その通りだよ、伊達君。 しかしその時代にいち早く人々をまとめ上げた人物がいた。 」 「まさか・・・・・」 出久はそれまでの話を聞いて察した。 皮肉なことに正義とは常に悪から生まれてくるものだ。 」 その言葉を聞いて二人は納得できてしまった。 仮面ライダー1号、本郷武はショッカーによって生み出された改造人間。 悪により生まれた正義の味方。 それこそが仮面ライダーの誕生の秘密である。 「オールマイト、もしかしてその人は今も生きているんじゃないんですか?」 「・・・・・・察しがいいね、緑谷少年。 奴は今は敵連合のブレーンとして再び動き出している。 」 「つまりオールマイトのワン・フォー・オールは戦う宿命ってわけか。 」 「・・・・・・・そうだ。 酷な運命かもしれないが・・・・・」 「オールマイト。 」 謝罪の言葉を述べようとしたオールマイトの言葉を出久が遮った。 「僕たち仮面ライダーはいつだってそうです。 人類を滅ぼすことが出来る敵を、仲間と共に戦い、そして倒してきました。 その悪は何度も蘇りもします。 それでも僕たちは戦います。 」 「そうだな。 なんのために戦うかはその仮面ライダーにとって変わるが、みんなに共通しているのは人間の自由と、平和のために戦うってことだな。 だから安心しろ。 それに・・・・・・なにもその力に一人で立ち向かうわけじゃないでしょ。 だから安心しな。 」 その言葉にオールマイトは嬉しかった。 決して一人ではないと、こんなにも頼りになる仲間が出久の周りに入るのだと。 「オールマイト、巨悪と立ち向かう時に貴方はいないかもしれません。 けど、信じてください。 僕たちを。 」 その言葉を聞くだけでオールマイトは救われた。

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